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深海ザメは浮く

 生物の身体の組織、特に骨や筋肉は海水よりも比重が大きく、魚は何もしなければ沈んでしまう。そこで、魚は様々な方法で浮力を得て沈まないようにしている。代表的な方法は鰾(うきぶくろ)を持つことである。しかし、鰾内の気体は水圧の影響で体積が変化してしまうため、深度を変えると浮力を失ったり、逆に鰾が膨張して海面に吹き上がってしまったりもする。他には翼の原理で揚力を発生して沈む力と相殺する方法がある。泳ぎ続ける魚はこの方法を主に使って沈まないようにしている。

 サメは鰾を持たず、翼のような形をした胸鰭で揚力を発生させて浮いており、止まると沈んでしまうと言われている。実際に遊泳行動を調べると、イタチザメでは潜っていく時と泳ぎ上がる時で尾鰭の振り方が異なり、泳ぎ上がる時の方が活発に尾鰭を振っていた(図1)。また、潜っていく時には尾鰭を止めて滑空するグライディングも見られた。つまり、サメには沈む力(負の浮力)が働いており、それが遊泳行動にも現れるということである。サメはそのような中でも比重を小さくするために、大きな肝臓に比重の小さい油脂を蓄えることで浮力を得ているとされる。特に深海性のサメでは体重の20%にも及ぶ大きな肝臓を持っているものがいる。深海性のサメの比重を海面で測った研究によると、ほぼ中性浮力になっていたと報告されている。しかし、深海の海水の比重は海面とは異なっており、実際に深海でサメが水に浮くのか沈むのかはわかっていなかった。そこで、カグラザメとコギクザメの2種類の深海性のサメに加速度計を付けて遊泳行動を調べた。

 深海ザメは潜っていく時と泳ぎ上がる時で尾鰭の振り方が異なり、イタチザメとは逆に潜っていく時の方が活発に尾鰭を振っていた(図2)。また、泳ぎ上がる時には尾鰭を止めて滑空するグライディングも見られた。つまり、深海ザメは沈む力ではなく浮く力(正の浮力)が働いていることがわかった。なぜ深海ザメが正の浮力を持っているのかの理由は定かではないが、深海ザメは日周鉛直移動を行うことから(図3)、昼間にいる深い低水温の環境から夜間にいる浅い高水温の環境に移行する際に、体温が低く活動性が低い状態でも泳ぎ上がることができるようにしているのではないかと考えている。また、深海ザメとされているカグラザメやコギクザメは、熱帯では深海に生息しているが寒帯では表層近くに生息していて日周鉛直移動の幅も狭い。今後、体温を計測することや違う地域での遊泳行動を調べることで、深海ザメが正の浮力を持つ理由が明らかになるかもしれない。

深海ザメ図1.png

図1 イタチザメの深度変化と遊泳行動。尾鰭を左右に振る時に生じる加速度を見ると、潜っていく時より泳ぎ上がる時の方が活発に尾鰭を振っていることがわかる。つまり、イタチザメは負の浮力を持つ。

深海ザメ図2.png

図2 カグラザメの深度変化と遊泳行動。イタチザメとは逆に、泳ぎ上がる時より潜っていく時の方が活発に尾鰭を振っていることがわかる。つまり、カグラザメは正の浮力を持つ。

深海ザメ図3.png

図3 カグラザメの日周鉛直移動と水温の鉛直プロファイル。カグラザメは昼間は深度600m、夜間は深度300m付近に滞在していた。水温は深度600mでは5℃程度だったのに対し、深度300mでは15℃程度と大きな差が見られた。

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